炎症性腸疾患（IBD）について
炎症性腸疾患（Inflammatory Bowel Disease：IBD）とは腸を中心とする消化管粘膜に炎症が生じる疾患です。原因が明らかなものとして感染性腸炎や薬剤腸炎などもありますが、一般的には、原因不明とされる潰瘍性大腸炎（Ulcerative colitis：UC）とクローン病（Crohn's Disease：CD）の2つを総称して炎症性腸疾患（IBD）と呼んでいます。
潰瘍性大腸炎について
潰瘍性大腸炎の主な症状は粘血便や血便、下痢、腹痛がありますが、発熱、貧血、体重減少等の症状が出現することもあります。症状が出現している時期を「活動期」、治療で症状が落ち着いている時期を「寛解期」といいますが、潰瘍性大腸炎には「活動期」と「寛解期」を繰り返す特徴があります。また、発症してから１０年以上経過すると大腸癌を発症する危険性が高まるため、定期的な内視鏡検査が必要です。
潰瘍性大腸炎は大腸に炎症が起きる病気ですが、炎症が悪化した場合や長期化した場合には合併症が起こる可能性があります。合併症は、合併症が起こる部分によって「腸管合併症」と「腸管外合併症」の2種類に分けられます。「腸管合併症」は、大量下血や大腸穿孔、大腸狭窄、大腸癌など、「腸管外合併症」は、関節炎、皮膚病変や眼の病変が挙げられます。
検査について
- 血液検査
- 内視鏡検査
- 便検査
- X線検査
- X線CT・MRI検査
がありますが、診断を確定するには内視鏡検査が欠かせません。
炎症の程度や範囲、粘膜の状態を確認し、必要に応じて病理組織検査を提出します。
潰瘍性大腸炎の具体的な治療方法
潰瘍性大腸炎で実施される治療は、①薬物療法 ②血球成分除去療法（けっきゅうせいぶんじょきょりょうほう） ③外科手術があります。当院では主に軽度の潰瘍性大腸炎の治療を行いますので、①のうち内服薬、座剤、注腸製剤による治療が中心となります。これらの治療で改善が見られないときは、生物学的製剤の導入や②、③の検討が必要になりますので、提携している総合病院へご紹介いたします。また、治療により症状が軽快しても自己判断で治療をやめるのではなく、医師の指示のもと毎日の服薬を欠かさないことを心がけてください。
クローン病について
クローン病は消化管粘膜に原因不明の炎症や潰瘍が生じる疾患です。発生しやすい場所は小腸や大腸ですが、口、食道、胃、十二指腸、肛門にも炎症が起こる可能性があります。特に肛門病変はクローン病の特徴ともいえる病変で、肛門病変からクローン病の診断がつくことがあります。
発症時期は10～20代に多く、男性に多く見られます。
クローン病の主な初期症状は、腹痛と下痢です。これらは半数以上の患者さんにみられ、発熱や体重減少、貧血などの症状が起きることもあります。さらに炎症が進行し膿瘍や瘻孔（腸のような管腔臓器の間に生じる管状の欠損のこと）、瘢痕（炎症が治ると残る傷あとのこと）、狭窄（炎症が治った後に腸が狭くなること）、痔瘻等も見られることがあります。潰瘍性大腸炎で多くみられる血便はクローン病ではあまり見られませんが、炎症が広範囲にわたる場合や痔瘻などがあれば血便を伴います。 クローン病の検査には以下のものがあります。
検査について
- 血液検査
- 病状が落ち着いたか否かの確認や再燃・合併症の早期確認のために行われます。具体的には炎症の有無や貧血の有無、栄養状態を確認します。
- 便検査
- 1日～2日分の便を採取し、便に血液が混じっていないかを検査します。
- 内視鏡検査
- 大腸内視鏡検査では、大腸から小腸の回腸末端部までの粘膜を内視鏡で確認し、瘻孔や狭窄、潰瘍やびらんなどの有無や位置を確認します。また、クローン病は消化管のどこにでも発生する可能性があり、また癌が発生することもあるため、大腸内視鏡検査だけでなく、上部消化管内視鏡検査なども定期的に受ける必要があります。
- X線造影検査
- 造影剤を使用し、大腸から小腸を中心とした消化管全体を確認します。X線造影検査では、病変の位置や広がりを確認できます。上記のような検査を組み合わせることで、クローン病の総合的な病状把握を行います。造影検査が必要と判断した場合は、検査可能な施設へご紹介いたします。
クローン病における治療のゴールは、潰瘍性大腸炎と同じく「寛解期」を維持する状態に持ってくることです。寛解導入療法と寛解維持療法の両方に栄養療法と薬物治療が行なわれ、症状の悪化や合併症の発症などに対しては手術も行われます。
クローン病の具体的な治療方法
クローン病の治療には、以下のような治療方法が用いられます。
- 薬物治療
- 薬物治療とは主に5-アミノサリチル酸製薬や免疫調節薬、ステロイドの投与が行われます。
- 栄養療法
- 栄養状態の改善はもちろん、腸管を刺激しないために一般的には低脂肪・低残渣の食事が求められます。クローン病の場合、免疫が過剰に反応しやすいたんぱく質は分子量の小さいアミノ酸まで分解して摂取します。鼻からチューブを通して直接腸に栄養剤を注入する栄養療法が中心ですが、時に血管から栄養を注入することもあります。
- 血球成分除去療法
- 血球成分除去療法とは、血液中から免疫細胞を取り除く治療法です。免疫細胞が病変部位に集まると炎症につながる可能性があるため、血球成分の除去が実施されます。
- 外科治療
- 合併症の発症などに対しては、手術を実施します。手術による腸管への影響を最小限にするため、切除範囲は小規模にとどめることが多いです。
当院では主に軽症のクローン病を診ていきます。
薬物療法で改善しないときは上記の栄養療法等行う必要が出てきますので、対処可能な総合病院へご紹介いたします。
